コロナ禍を機にオンライン留学を検討する方が増えてきているのではないでしょうか。インターネットでも多くの留学エージェントがオンライン留学を紹介しているようですが、もしかして、オンライン留学の魅力的な部分だけを見ていませんか?
オンライン留学であれ、現地留学であれ、留学はお金と時間のかかる大きな決断です。アメリカでの現地留学と日本からのオンライン留学の両方の経験から、オンライン留学のメリットとデメリット、どんな場合にオンライン留学が有効かをご紹介します。
皆さんの大事な決断にあたり、少しでも参考になれば幸いです。
オンライン留学のメリット
1. 日本で仕事をしながら留学することができる
終身雇用が根強く残る日本では、仕事を休職したり、辞めたりするのはとても抵抗があると思います。家族との兼ね合いや、将来の再就職の心配を考えれば、日本で仕事をしながらオンラインで留学できるというのはとても魅力的です。
2. 渡航費や現地の生活費が不要
留学で必要なお金は学費だけではありません。現地での住まいや食費など、もろもろの経費を考えると、オンラインの留学は基本的に学費とテキスト代だけで勉強できるので、費用の面では随分助かります。
学費は”Out of State”価格
アメリカの公立大学では、州の住民か否かで学費の額に差があります。学費を計算するときには「out of state/州外」の額をチェックしましょう。現地留学の場合でも、海外からの留学生はout of stateの金額です。ちなみに、州立大学の場合、現地で働いて1年以上税金を納めていれば州の住民として安い学費で通えます。でも手続きはとても面倒です。(公立学校の授業料減額制度とテキスト代)
オンライン留学のデメリット
1. 留学当初から相応の英語力が必要
会話力を伸ばす機会はほとんどないと覚悟しよう
現地留学であれば、普段の生活も英語に囲まれるので日々英語力を向上させていくことができますが、オンライン留学のプログラムでは英語はパソコン上だけです。書く力と読む力は伸びていきますが、会話力を向上させる機会は非常に乏しいです。スカイプやzoomで話す機会があると想像するかもしれませんが、私のオンライン留学の経験上、それは全くと言っていいほどありません。
そもそも、オンラインプログラムは、大学が遠くて通えない人や時間が不規則な社会人のために作られはじめたものなので、わざわざ時間を合わせて話をするというのは当初の目的に合っていないのです。
オンライン大学院では、社会人としてのコミュニケーションが当然できる前提でクラスが進んでいきます。また、現地留学では留学生をサポートする事務局があったり講師とface to faceで話すことができますが、オンラインプログラムではこうしたことはほとんどできません。留学生向けのオンラインプログラムでない限り、アメリカの社会人と同等の英語スキルを持っていることを前提に授業が進められることを覚悟しておいたほうがいいでしょう。
2. オンライン留学で得られる学びは限定的
オンライン留学はひたすら読んで書く
オンライン留学のクラスは、毎週「講師から課題が出て、課題図書を読んで、エッセイを書いて、提出」の繰り返しです。ときどきグループワークのために複数名でエッセイを書いたり、リサーチペーパーという、長い論文を書いたりします。いい先生はあの手この手で、オンラインでもできるだけ学びが得られるよう工夫していますが、基本的には、「黙々と読んで、書く」の地味な日々です。私はこれまで、アメリカの2つの大学で、ビジネス系のオンライン修士プログラムを経験しましたが、リアルタイムの講義を聞くということは一度もありませんでした。
先生にとって、オンラインプログラムは「楽な商売」
アメリカに住んでいるとき、カレッジの先生をしている友人がいたのですが、彼曰く、講師にとっては「オンラインクラスはとても楽」とのこと。どういうことかというと、講師は、毎学期、(使いまわしの)16週間のアサインメントを、学期の始まりにオープンして、毎週提出された課題を採点して、学期末試験をして終わり、というサイクルをするだけ。なので、講師にとっては”楽な商売”なのです。
オンラインでどこまで講師に食らいついて、学び取るかは学生の姿勢次第ですが、顔を合わせる授業とオンラインでしかコミュニケーションをとらない授業に、「得られるものの差」があることはしっかり踏まえておいたほうがいいと思います。
3. オンラインプログラムの卒業資格は通学より「格下」
2016年にアメリカでオンライン修士プログラムを初めて受けましたが、当時、オンラインプログラムを卒業して得られる資格には必ずといっていいほど「online」という言葉が含まれていました。例えば、「Engineering Management M.A. Online」といった感じです。アメリカでは、オンラインプログラムを通学のプログラムと同等とはみなしていないところがあるので、「この人はうちの学校の”オンライン”プログラムを卒業したんですよ」と分かるようにしています。
ちなみに、コロナ禍で私の大学でも通学クラスが軒並みzoomの授業に置き換えられていますが、オンラインプログラムの学生はそのクラスを取ることができません。ここからも、そもそも通学とオンラインではプログラムの作りに違いがあることが伺えます。
オンラインプログラムに対する信頼度はまだ低い
通学で学べるものよりも学びの質が低いことや、学生が不正をせずに受講しているという確証がないことなどから、オンラインプログラムに対する信頼度はまだ低いです。ですので、オンラインプログラムの卒業資格では、就職の際などに割り引かれて見られる可能性があることを知っておいたほうがいいでしょう。
オンライン留学が向いているケース
1. すでに現地での生活・留学経験がある
留学先で生活をした経験がある方、大学に通っていた方は、アメリカ人がオンラインプログラムで享受するのと同等の学びがあると思います。基本的なコミュニケーションに躓くことがないというのは重要です。アメリカ人にとっても、オンラインプログラムは仲間が別々の場所からコミュニケーションをとるものだという心構えがあります。なので、文章のコミュニケーションであってもお互いに気を遣ったり、あるいは日本人にとってはドライだなと感じる会話だったりします。「アメリカ人ってこういうコミュニケーションの仕方をするよね」ということをわかっているかどうかで、感じるストレスが変わってきます。
2. 卒業資格を得ることが目的
履歴書上、または仕事やキャリアの都合でどうしても海外の大学卒業(修了)の資格だけほしいという場合、オンライン留学は助かる存在だと思います。将来も日本の中だけでキャリアを形成していくのであれば、会話力や異文化コミュニケーション力の向上が見込めないことを割り切って、オンラインプログラムを受講してもいいと思います。
オンライン留学が向いていないケース
1. 異文化経験を兼ねた語学留学
実践的な対人コミュニケーション力を身につけるためには、face to faceのコミュニケーション経験は必須だと思います。日本でアメリカ人と話すのと、アメリカでアメリカ人と話すのとでは、相手の対応は大きく違います。日本のアメリカ人は日本人の発音や文化に慣れているので、日本人が日本人らしいままでも相手をしてくれますが、アメリカのアメリカ人は日本人らしいのコミュニケーションの仕方を理解してはくれません。たとえ些細なことであっても、実際にアメリカにいるからこそ経験できることは山ほどあります。
2. オンラインプログラムの卒業資格では不十分なキャリア目標
オンライン留学のデメリットで書いた通り、オンラインプログラムは通学プログラムに比べて、学びの質や周りからの評価が低い傾向にあります。将来国際的な仕事をしていきたいと考えているのであれば、現地留学の卒業資格のほうが、オンラインより高い評価で受け止められるでしょう。
ちなみに、もしも私が採用する側で、履歴書にオンライン大学卒業と書かれていたら、「オンラインの留学でどれだけコミュニケーション力が育ったんだろう?」と穿った見方をして、英語面接に切り替えると思います。
3. 将来アカデミックな方面でのキャリア構築を考えている
ウェブで検索をすれば博士課程のオンラインプログラムが出てきますが、アカデミックな分野で専門家になろうと思っているのであれば、現地留学をすべきだと思っています。経験上、オンラインプログラムの修士課程ではなかなか先生との絆を深めることができません。想像ではありますが、大学での人脈構築はアカデミックなキャリアを積み重ねていくのであればきっと重要だろうと思うのです。
また、もしも自分が博士課程に進んで勉強したいと思った場合、そもそもオンライン修士で修士を修了したと認めてもらえるのだろうかという不安があります。修士論文やGPA(大学在籍中の成績の平均点)で補うことになると思いますが、いずれにしろ、オンライン大学の卒業というのは、まだ少し心許ない資格です。
状況が整うならぜひ現地留学を
せっかく高い学費を払い、相応の時間をかけるのですから、もしも状況が整うのであれば現地留学することを強くお勧めします。一日も早くコロナ禍が終息して、皆さんの選択肢が増えることを願っています。